【論文解説】重症の変時性不全を伴う慢性心不全患者におけるCLSの効果 −BIO|CREATE study−

Impact of closed loop stimulation on prognostic cardiopulmonary variables in patients with chronic heart failure and severe chronotropic incompetence: a pilot, randomized, crossover study

Joachim Proff , Be ́la Merkely, Roland Papp, Corinna Lenz, Peter Nordbeck, Christian Butter, Juergen Meyerhoefer, Michael Doering, Dean J. MacCarter, Katharina Ingel, Thomas Thouet, Ulf Landmesser, and Mattias J. Roser

Europace 2021 May. 13;23:1777–1786

変時性不全(CI: chronotropic incompetence)とは、洞機能の低下など心拍数が遅い患者で、運動時などに心拍数の応答が悪く十分に心拍数が上がらないことで心拍出量と代謝要求が一致しない病態です。一般的には、年齢位予測最大HR(APMHR)やHR予備能(HHR)などで診断され、いずれもカットオフは80%とされています。心不全患者では、薬剤の影響などによりこれらは過大評価される可能性があり、実際、カットオフ値による予後のデータは一様ではなくさまざまとなっています。

また、デバイス植え込み患者では特に変時性不全が問題となることが多く、デバイス患者での変時性不全の評価では、HR scoreが用いられることが多くあります。これは、最も高い10拍/分のヒストグラムの割合を表したもので、HR score>70%であれば、レートレスポンス機能が予後改善に寄与するかもしれないという報告があります。

従来のレートレスポンスは、ペースメーカ本体が受ける水平や垂直方向の加速度を元に心拍数変化をもたらす機能が多くでしたが、closed loop stimulation(CLS)というより生理的反応に近いレートレスポンス機能が開発されており、本論文はこの有効性をみたスタディになります。

今回は、重症の変時性不全を有するCRT患者において、臨床予後を含むCLSありとなしの有効性をCPXによって評価し、CLSへの反応者を特定とすることを目的としています。

CLSは、リード先端のインピーダンスを用いて、心周期(心筋収縮の状態)をとらえてレートレスポンスする仕組みです。より生理的変化に近いとされており、心不全増悪時の交感神経系の活性化などに反応することが期待されています。

このBIO CREATE試験は、classⅠでCRT植え込みを行った患者で、植え込み後6ヶ月以上が経過したNYHAⅡ°かⅢ°、至適薬物療法を行われている患者を対象とし、%APMHRが75%未満、%HHRが50%未満と、重症の変時性不全を有する患者としています。患者は、DDD40で運動負荷を行い、変時性不全を評価し、DDD HR 40かDDD-CLSに割り付け1ヶ月、その後クロスオーバーして1ヶ月としており、BNP、エコー、CPXなどで評価を行っています。20名が無作為化され、CLSにおいて有意に変時性不全の改善を認め、VEスロープの改善が見られました。VEスロープが改善したレスポンダー8名、改善しなかったノンレスポンダー9名を比較すると、レスポンダーではNYHAⅡ°が多く、EFが高く、EDVやESVが小さい傾向にありました。このように、すべての症例でCLSによる改善が得られるわけではないという結果になりました。

考察ですが、レスポンダーではVEスロープは1.8改善しており、3年の主要心イベントの相対リスクが23%低下することになります。逆にノンレスポンダーではVEスロープが6.8%悪化しており、これは心不全の増悪に関与する可能性があります。

今回のパイロットスタディでは、心不全があまり進行していない変時性不全のある患者において、CLSがより改善される可能性が示唆されるというのが今回の結論です。

発表者:金子先生、文責:矢島

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次