急性大動脈解離は、一般の方でも、「ある芸能人の方が突然亡くなった」とか、「運転中に発症して大きな事故の原因になった」、時の原因となる病気として、名前を聞くことがあるかもしれません。
我々医療者にとっても、突然の胸部症状の原因疾患として、見逃してはならない疾患の一つとして挙げられる重要な病気です。見逃してはならない理由は、放っておくと命に係わる危険性がある、適切な治療によって回復する可能性があるからです。
大動脈とは?
大動脈とは、心臓から送り出された血液を体の隅々に送り込むのに、心臓から出た血液が最初に通る大きな血管のことです。上行大動脈は頭に向かって言って、胸の上の方で折り返して、下行大動脈となって足の方に向かっていきますが、それまでに頭や腕、腹部などに向かって、動脈は枝わかれしていきます。
大動脈解離とは、この大きな血管の壁の内膜に亀裂が生じることで、「解離」が起こり、血管の壁の中に血液が流入して、偽腔ができます。時間経過とともに偽腔が拡大してしまい、本来血液が流れていた真腔が圧排されて、真腔内に十分な血液が流れなくなってしまうことが一番の問題となります。
大動脈解離が起こる原因
大動脈解離が起こる原因は明確ではありませんが、何かの原因によって血管壁(特に中膜)が脆弱(ぜいじゃく)になっているところに、負荷(高血圧)が加わって起こると言われています。特に高血圧は、この中膜の脆弱性と負荷の両方の原因となるため、高血圧がこの病気の重要な原因と言えます。
急性大動脈解離の症状
急性大動脈解離の症状は、血管内膜に亀裂ができた場所に生じる「突然の強い痛み」と偽腔が広がっていくことによって、「時間と共に移動する痛み」が特徴です。はじめは胸の痛みだったのに、時間と共に背中や腰に痛みが移動してきたというのが一つの典型的な症状となります。しかし、必ずしもこのような典型的な症状を呈するわけではなく、急な腰痛が筋肉や背骨が原因と疑われたり、来院時は胸部症状が治まっていて、急性大動脈解離の診断が困難なこともあります。
急性大動脈解離の診断
急性大動脈解離の診断は通常CTを撮像することで行われることが多いです。特に造影剤を使用したCTであれば高い診断率が期待されますが、腎臓の機能が悪い場合などには造影剤の使用がためらわれてしまう場合があります。 急性大動脈解離には解離が生じた場所による分類があり、解離の場所が上行大動脈にあるStanford A型の場合、脳血流が落ちてしまったり、心臓への血流が落ちて心筋梗塞を合併することがあるため、極めて危険な状況にあり、緊急外科手術の適応となり得ます。一方、解離が上行大動脈にはなく、下行大動脈に限局している場合は重要な血管の血流が落ちているなどがなければ、保存的(安静と疼痛および血圧コントロール)が治療の中心となります。
以上、急性大動脈解離についてまとめました。特に高血圧を有する患者さんに起こる疾患であり、場合によっては命にかかわる病気であるため、一般の方も知って頂きたい病気です。