心房細動の話〜原因から治療まで

目次

心臓の構造

 心臓は4つの部屋で構成されています。左右の心房と左右の心室です(図1)。左心室が全身に血液を送り出すポンプの役目をしています。安静時の正常な心拍数は60〜90回/分程度ですが、この心拍数は右房にある洞結節というペースメーカーによって決定されます。運動時には洞結節がより高頻度に興奮して心拍数が増加します。(動画1、図1)

動画1

 では、この心房の構造をより詳細に見てみましょう。図2はCT画像をもとに左右の心房を立体的に再構築したものです。左心房は、4本の肺静脈という血管とつながっています。後ろから見た図(図2右)で、左上、左下、右上、右下の計4本の肺静脈があることがわかります。また右心房には、上大静脈という血管がつながっています。これらの肺静脈と上大静脈が心房細動の発生や維持にはとても重要な役割を果たしています。

心房細動とその原因

 心房細動は、心房が毎分400から600回の頻度で興奮した状態で、結果的には心房の動きはけいれん状態になってしまいます(細動)。初期の心房細動の原因の約90%は、左心房につながる4本の肺静脈から発生する高頻度の異常刺激です。この刺激が左心房内に伝わることで心房細動が発生します(動画2、図3)。

動画2

 肺静脈の解剖学的構造、遺伝的素因、ストレス、加齢、高血圧、糖尿病、心不全、睡眠時無呼吸症候群、過度の運動や飲酒、たばこなど様々な要因が心房細動発生の原因となります。

心房細動に伴う諸問題

心房細動は、大きく4つの問題を伴います。

 1つ目は、自覚症状です。心房細動では安静時でも心拍数が早くなることが多く(頻脈:100〜200回/分程度)、また脈拍が完全にバラバラになります。その結果、動悸や胸の違和感、圧迫感、息切れなどを感じます。中には完全に無症状の方もいらっしゃいますが、よくお話を聞くと、「疲れやすくなった」や「運動能力が低下した」などの症状があります。

 2つ目は、心不全です。心室が血液を有効に拍出するためには心室がしっかり拡張し、血液を貯める時間が必要です。しかし、心房細動によって頻脈が続く結果、心臓は十分に拡張する時間がなくなり、有効な拍出ができなくなり、その結果心不全となってしまいます。

 3つ目は、脳梗塞です(動画3、図4)。心房細動になると心房が痙攣状態になります。その結果、心房内の血流によどみが生じ、血の塊(血栓)を作りやすくなります。とくに、左心房には左心耳という袋状の構造があり、この中に血栓ができやすくなります。血栓がはがれて、脳へ飛んでしまうと、脳梗塞を発症することになります。脳梗塞の発症リスクは、年齢や心不全、高血圧、糖尿病、脳梗塞の既往の有無などでおよその推定ができます。通常1年間に2〜8%の方に脳梗塞が発症します。

動画3

 4つ目の問題として、心房細動の進行があります。心房細動は進行性の病気です。月〜年単位で進行していきます。心房細動が進行すると、発作の回数や持続時間が長くなっていきます。さらに左心房のサイズが拡大していきます。当初は、発作の持続時間が数時間程度であったものが、進行とともに、1日→数日→数週間→数ヶ月と持続時間が長くなっていきます。発作が始まってから一週間以内に自然停止するものを発作性心房細動と呼び、1週間以上1年間未満のものを持続性心房細動、1年以上持続するものを長期間持続性心房細動と呼んでいます。症状が弱い方は、診断を受けた段階ですでに持続性心房細動になっていることがあります。

心房細動の治療法

 治療は、脳梗塞予防と心房細動対する治療に分けて考えます。

脳梗塞予防

 脳梗塞の予防のためには、抗凝固薬を内服します。従来のワーファリンに加えて、プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナなどがあります。ワーファリンは安価ですが、およそ月1回の血液検査と内服量の調整、納豆が食べられないなどの食事制限、脳出血や消化管出血などのリスクが新薬と比べて高いなどの特徴があります。一方、新薬は定期的な血液検査がワーファリンほど必要でないこと、食事制限がないこと、出血リスクが低いなどの利点がありますが、薬代が高価で、また腎機能が低下した患者さんには使いにくいなどの特徴があります。これらの抗凝固薬によって脳梗塞のリスクを年1%程度に減少させることができますが、副作用として、およそ年間1%程度に大きな出血を認めます。

心房細動の治療

 主に薬物療法高周波カテーテルアブレーションがあります。薬物療法には、抗不整脈薬による治療(正常調律の維持)と脈拍コントロールの2つがあります。

抗不整脈薬による正常調律の維持

 抗不整脈薬は、心房細動の発作回数と持続時間を減らし、正常調律を維持することが目的です。しかし、抗不整脈薬は心房細動の進行を抑制することはできず、心房細動の進行とともに無効になっていきます。すなわち、抗不整脈薬で心房細動が治癒するのではなく、一時的に発作を抑制しているという状態です。またときに重篤な副作用も認めます。抗不整脈薬により自覚症状が悪化することもあります。抗不整脈薬による心房細動の治療は、「薬でねばる」治療とも言い換えられます。

脈拍コントロール

 一方、脈拍コントロールは、心房細動そのものを治すことが目的ではありません。通常、脈拍数が早くなる心房細動発作に対して、脈拍数を遅くすることで自覚症状を軽減し、同時に心不全のリスクを減らすことが目的です。このために脈拍数を抑制する薬が必要となります。当初は、自覚症状のつらかった発作も脈拍コントロールによって次第に慣れていきます。しかし、慣れるまでに数ヶ月〜数年を要することもあります。また息切れなどの症状が完全に消失しない場合もあります。さらに脳梗塞予防のための抗凝固療法は生涯にわたる継続が必要で、同時に出血のリスクを生涯背負うことになります。この間、心房細動そのものは進行していきます。この治療は「心房細動と共に生きていく」という治療法です。あるいは、心房細動そのものの治癒は「あきらめる」とも言い換えられます。

カテーテルアブレーション

高周波カテーテルアブレーション
高周波カテーテルアブレーション術は血管を介して
カテーテルを心臓まで挿入し、病変部位へカテーテル
先端に取り付けられた電極に高周波エネルギー(500kHz, 30W)
を通電し、カテーテル先端に接する組織が50-60℃となることで
病変部を焼灼する治療法です。

 薬物療法以外の治療法として、高周波カテーテルアブレーションがあります。カテーテルアブレーションでは、血管を介して細い管(カテーテル)を心臓まで挿入し、様々な電気現象を解析して見つけ出した病変部位へカテーテル先端を持って行きます。そしてカテーテル先端に取り付けられた金属部分(電極といいます)に高周波エネルギー(500kHz, 約30W)を通電して、カテーテル先端に接する組織が50-60度となることで病変部を焼灼する治療法です(図5)。

 心房細動の原因の多くは、肺静脈からの異常刺激によると説明しました(90%)。そこで、心房細動のカテーテルアブレーションではこの肺静脈が治療の主な対象となります。肺静脈は4本ありますが、多くの例で、4本の肺静脈の様々な部位から心房細動の刺激が出現します。そのため、4本の肺静脈を全て、左心房と電気的に絶縁状態にします。これを電気的肺静脈隔離術といいます(動画4)。

動画4

 図6のように、肺静脈と左房の接合部を連続的に焼灼し、右上および右下肺静脈、左上および左下肺静脈をそれぞれ一括して、電気的に隔離しています。電気的に絶縁状態にすると、肺静脈内からどれだけ刺激が出ても、左心房には刺激が伝わらず、心房細動は発生しなくなります。

クライオアブレーション

 近年バルーンカテーテルによる肺静脈隔離法が普及し、クライオバルーン、ホットバルーン、レーザーバルーンがあります。当院ではその中でも最も豊富なエビデンスがあるクライオバルーンを用いております。クライオアブレーションは心筋を焼灼するのではなく、径28mmのバルーンを亜酸化窒素ガスでマイナス40℃から60℃に冷却し、心筋を冷凍凝固することにより電気的な絶縁状態を作成します。図7のようにバルーンを肺静脈入口部に押し付けることにより、肺静脈入口部周囲の冷凍アブレーションを行います。肺静脈入口部の形状によってはクライオアブレーション治療が行えない例もありますが、従来の高周波カテーテルアブレーションと比較して手技時間が短縮されることが大きな利点です。

 高周波およびクライオアブレーションのどちらを用いるかは、症例毎にどちらが適切かを検討してより良い治療法を患者さんに説明しております。

カテーテルアブレーションの成績と再発

 カテーテルアブレーションの成績は、心房細動の進行の程度で変わってきます。我々の成績では、発作性心房細動や初期の持続性心房細動であれば、初回の肺静脈隔離術のみで、およそ90%の患者さんで良好な結果が得られます。10%の患者さんでは、初回治療後に再発を認めます。その原因の1つは、肺静脈と左心房間の電気的な再伝導です(図8)。

 焼灼部位(やけど)の心筋細胞が時間とともに回復し、肺静脈内の刺激が再び左房へ伝導してしまうのです。この場合、2回目のアブレーションで、この再伝導部位(ギャップ)を焼灼し、電気的隔離を完成させます。その他の再発の原因として、肺静脈以外に心房細動の原因を認めることがあります。最も頻度の高い部位は右心房につながる上大静脈です。他にも心房中隔や右房に起源を認めることがあります(図9)。

初回治療時にこれらの起源が出現しなかった場合、原則、肺静脈隔離術のみを行います。発作性心房細動および初期の持続性心房細動では、2回の治療によっておよそ95%の患者さんで心房細動が治癒します。しかしながら進行した持続性心房細動では、その成績は低下し、複数回の治療でも治癒しないケースもあります。つまり心房細動の治癒を目指すには早期治療が望ましいと考えられています。このように心房細動に対する高周波カテーテルアブレーション治療は、治癒を目指して「心房細動と戦う」治療法と言えます。

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この記事を書いた人

【佐賀大学医学部循環器内科ドクター】

佐賀大学医学部循環器内科に勤務するドクターが、心臓にかかわる病気のよくある事例や予防をブログにて執筆しております。少しでも皆さんのお役にたちますように。

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