少し動いただけで息が切れます。

 

 「息切れ」の症状は「息が上がる」「息が苦しい」「ハアハアいう」など人によって表現は様々です。この「息切れ」の原因は、体全体の臓器における酸素不足、または酸素の利用障害で起こります。

 体に取り込まれた酸素が各臓器に運ばれ、それぞれの細胞で利用されるためには、肺や心臓、血液、筋肉など多くの器官が関わっているため、「息切れ」の原因は、心臓の病気のみならず、さまざまな種類の病気の可能性があります。

また、病気ではなく生理的な変化(加齢や廃用など)が原因のこともあります。まずはかかりつけの病院を受診して、「息切れ」の原因が何であるか大まかな見当をつけた上で、精密検査や治療に進む必要があります。

 ここからは、息切れの原因の一つである心不全についてお話します。
心不全とは『心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気』と定義されています(日本循環器学会、日本心不全学会)。

 心不全とは病名ではなく、病状を指す言葉です。心臓が以下にあるようなさまざまな病気のために、ポンプとしての正常な機能を発揮できなくなり、そのせいで息切れやむくみなどの症状が出てきた病状のことを言います(具体的にはそれぞれの病気についての記事をご参照ください)。


1.高血圧

血圧が高いことで左心室からの血液の送り出しに負荷がかかる。長期的に持続することで負荷が増えていく。

2.心筋症

心臓の筋肉自体に異常が生じるために、ポンプ機能が果たせなくなる。原因は、先天的な遺伝子の異常があったり、全身性疾患によるものであったりと、さまざまである。

3.虚血性心疾患

虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)。心臓を養っている血管が動脈硬化や変性によって狭くなったり閉塞したりすることで、心臓の筋肉へ血液が回らなくなり十分に働けなくなる。

4.弁膜症

心臓内や心臓と大きな血管を結ぶ場所にある弁が、狭くなったり、閉じが悪くなって血液の逆流が起こったりする。

5.不整脈

速すぎる脈や遅すぎる脈、不規則な脈などにより、心臓に負担が生じる。


 これらの心不全の原因は、一つだけのこともありますが、複数を一度に持っていることもあります。それぞれの原因に対する治療と並行して、心不全そのものに対する治療も行う必要があります。

 心不全は適切な治療により症状を一時的に改善させることができますが、残念ながら完治させることはできません。また、過労、塩分や水分の摂りすぎ、風邪、ストレスや、 薬の飲み忘れなどにより心不全の症状が悪化、あるいは再発することもあります。このような経過をたどりながら、全体としては徐々に悪くなっていき、生命に関わる状況につながっていきます。心不全で入院したことのある人は、平均で5年間に約半数の方が亡くなっているという報告があります。これは肺がんよりは良好ですが、大腸がんとほぼ同じ、前立腺がんや乳がんよりは不良です。

 私たち循環器内科の医師は、心不全の原因を探り、それぞれの原因に合った治療を組み立て、心不全の症状自体を緩和する治療も行います。さらに進行する心不全の状況に合わせた生活習慣や運動習慣の指導なども、医療スタッフ・介護関係者と一緒に並行して行っていきます。

 また、心不全は早期に発見し、治療を開始することが重要です。生活習慣病など心不全の原因につながる病気を管理することで心不全発症の予防ができます。定期的に健康診断を受診されたり、気になる症状があれば早めに医療機関に受診されるなどで、早期に発見することが可能になりますので、積極的にご検討ください。