抗凝固薬を続けられない心房細動の患者のための新たな治療法【経皮的左心耳閉鎖術】について

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心房細動をお持ちの方の“脳梗塞”の問題

 心房細動をお持ちの方の問題の一つに、心臓の中の “左心耳” と呼ばれる部分に血の塊(血栓)ができてしまい、脳梗塞を含めた全身の塞栓症を起こしてしまう危険性があります(詳しくは「心房細動の話〜原因から治療まで」のページをご参照ください)。このため、心房細動の方は脳梗塞を予防するために、血液をサラサラにする薬である抗凝固薬を内服する必要があります。しかし、抗凝固薬を長く飲み続けていると、副作用として脳出血や消化管出血といった出血性合併症が起きてしまうことがあります。

抗凝固薬を飲めない方ための新たな治療選択肢

 心房細動のために長期間、抗凝固薬を飲み続けなければならないのに、出血性合併症などの問題で抗凝固薬を飲み続けることができない患者さんのために、新たに経皮的左心耳閉鎖術を受けていただくことで、抗凝固薬を減量、もしくは中止できる可能性があります。

経皮的左心耳閉鎖術ってどのような治療?

 “経皮的” というのは、外科手術によって胸を開く手術を受けていただくのではなく、カテーテル(細長い管)を用いて治療を行ないます。「TAVI-Transcatheter Aortic Valve Implantation」のページでもご紹介させて頂いておりますが、近年、大動脈弁狭窄症をカテーテル治療で行うことができるようになりました。カテーテルでの治療では、細い管を用いて血管の中を通じて治療を行なうために、大きな傷が残りません。

 太ももの付け根にある大腿静脈からカテーテルを進め、目的となる左心耳の入り口に、カテーテルの中を通じて閉鎖デバイスを置いてきます。手術時間は約1-2時間で、全身麻酔下に行われます。

 特に問題がなければ術後2-3日での退院となります。

経皮的左心耳閉鎖術の安全性は?

 この治療は欧米では2002年から始まっていますので、すでに20年の歴史があります。ただ以前は使用していた閉鎖デバイスが左心耳の壁を傷つけたり、固定が悪くて位置がずれてしまったり、といった問題がありました。2021年から日本で使えるようになった新たなデバイスは、よりしなやかな構造になり、また左心耳壁への固定がよくなったため、より安全に使用することができるようになりました。

経皮的左心耳閉鎖術を行った後はどうなっていくの?

 左心耳に閉鎖デバイスを置いた後、通常は1−2ヶ月で内皮化され始め、心臓の組織と一体化していきます。治療後早期には閉鎖デバイスの表面に血栓が付着する可能性があるため、抗凝固療法を継続します。

 内皮化の速度は人により異なり、抗血栓薬を減らしていきながら、適宜に経食道心エコー検査もしくはCT検査を行い、内皮化の程度や薬を減らしたことにより血栓が形成されていないかを確認します。患者さんの状態、閉鎖デバイスの状態によって抗血栓薬を調整していきます。  内皮化のスピードに問題があったり、血栓が見つかったりした場合には薬物の種類・切り替えのタイミング、検査の方法・タイミングが変更になる場合があります。

佐賀大学でも治療を受けられるの?

 当院でも2023年1月よりこの治療を開始しております。佐賀県で唯一の認定施設ですので、治療に興味があれば一度、当院の循環器内科外来を御受診してください。

治療を受ける予定の方へ(医師からの説明動画のご案内)

 実際に佐賀大学でご説明している詳細は”左心耳閉鎖デバイス(WATCHMAN)植え込み術【詳細説明】”をご参照下さい。医師からの説明の動画もございますので、治療を受けられる方は、必ずご確認ください。

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この記事を書いた人

【佐賀大学医学部循環器内科ドクター】

佐賀大学医学部循環器内科に勤務するドクターが、心臓にかかわる病気のよくある事例や予防をブログにて執筆しております。少しでも皆さんのお役にたちますように。

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