【論文解説】軽度EF低下、もしくはEFが保たれた心不全増悪患者におけるARNIの有用性について 〜PARAGLIDE-HF study〜

Angiotensin-Neprilysin Inhibition in Patients With Mildly Reduced or Preserved Ejection Fraction and Worsening Heart Failure

Robert J. Mentz, MD, Jonathan H. Ward, PHARMD, Adrian F. Hernandez, MD, MHS, Serge Lepage, MD, David A. Morrow, MD, MPH, Samiha Sarwat, PHD, Kavita Sharma, MD, Randall C. Starling, MD, MPH, Eric J. Velazquez, MD, Kristin M. Williamson, PHARMD, Akshay S. Desai, MD, MPH, Shelley Zieroth, MD, Scott D. Solomon, MD, Eugene Braunwald, MD, on behalf of the PARAGLIDE-HF Investigators

JACC 2023. in press

心不全の増悪(worsening heart failure : WHF)イベントは、我々が心不全の病態が次のステージに移ったと認識しなくてはならない変化である。

急性心不全や心不全の急性増悪といった急性(期)心不全における特異的薬物治療については、臨床試験がたくさんあるが、これまでなかなか良い結果が見られていなかった。近年、鉄剤静注や、ベルイシグアトの使用などは、比較的病態が不安定な急性期の心不全患者であってもベネフィットが報告されている。また、SGLT2阻害薬については、早期の開始でベネフィットが大きい結果となった臨床試験が多く見られる。

ARNIについては、急性(期)心不全のHFrEF患者で早期に導入した場合の予後の改善が2019年に報告されている。今回の論文は、では急性(期)心不全のHFpEF (LVEF>40%)患者について研究したものである。

入院から30日以内(退院後の開始もある)にARNIもしくはバルサルタンを開始し、8週間までのNT-proBNPの変化と心血管イベント(イベントについては最長84週間)を解析した。

466例が均等に割り付けられた。患者背景は、71-72歳でPIONEER studyに比べるとやや高齢の印象で、NYHAⅡ°が4割、NT-proBNP 1500-1600程度、  EF55%程度が中間値である。収縮期血圧は130mmHg弱で、基礎の心不全治療薬については、SGLT2阻害薬が1割、ACE阻害薬/ARBが7割、MRAが3割程度となっていて、利尿薬はほぼ全例が使用しているなど、PIONER studyと差が見られている。7割が入院中にARNIもしくはバルサルタンを開始しており、残り3割は退院後の開始であった。ARNI群については最大用量までの増量は少なく、100mg分2が4割、200mg分2が4割である。

結果、NT-proBNPについては、ARNI群で15%のrisk reductionが見られた。これは、EFで層別解析を行うと、EF60%未満において22%のrisk reductionとなり、60%以上では差がなかった。

イベントについては、心血管死、心不全入院、増悪による受診、NT-proBNPの変化、を、WIN-RATIOで解析している。全体で群間差はつかなかったが、EF60%未満に限ると、ARNI群で有意なrisk reductionが見られた。安全性については、

症候性の低血圧が、ARNI群で少し多く見られた。これには、ベースラインの治療薬の差とPIONEER studyと比較して高齢であることが関与しているのかもしれない。

結論としては、EF >40%の急性(期)心不全に対するARNIの使用は、NT-proBNPをより低下させ、心血管・腎イベントを減らすが、症候性低血圧をより多く伴うという臨床効果をもたらす可能性が示唆された。事前に規定したEF60%以下のサブグループでは、NT-proBNPと臨床転機に対する効果はより大きかった。

急性期心不全に対する介入研究はほとんどが欧米のものである。我々は、現在、EFに関わらない急性期心不全に対し早期のARNI開始の効果を見るPREMIER studyを進行中である。

発表:田中先生、文責:矢島

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