出典: JACC: CLINICAL ELECTROPHYSIOLOGY VOL. 12, NO. 2, 2026: 277-290.
1. 背景と目的
心房細動(AF)患者において、経食道心臓超音波(TEE)で観察される左房内の自発的エコー輝度(SEC)は、赤血球の凝集を示唆し、血栓塞栓症や脳血管イベントのリスク上昇と関連することが知られています 。近年、抗凝固療法(OAC)が困難な症例に対する代替療法として、経皮的左心耳閉鎖術(LAAC)が普及していますが、術前のSEC重症度がLAAC後の臨床転帰にどのように影響するかは十分に解明されていません 。本研究は、日本の多施設レジストリ(OCEAN-LAAC)を用いて、SECグレードがLAAC後の血栓塞栓イベントやデバイス関連血栓(DRT)に与える影響を評価することを目的としました 。
2. 対象と方法
2019年9月から2022年12月までに日本国内の20施設でWATCHMAN 2.5またはWATCHMAN FLXを用いてLAACを施行された連続症例1,464名を対象としました 。このうち、術前TEEでSEC評価が可能であった1,276名を解析対象とし、SECの重症度に基づいて以下の3群に分類しました 。
- SEC 0群: なし(46.6%、595名)
- SEC 1/2+群: 軽度〜中等度(39.9%、509名)
- SEC 3/4+群: 重度〜最重度(13.5%、172名)
主要評価項目は、全死亡、虚血性脳卒中/一過性脳虚血発作(TIA)/全身性塞栓症、および主要出血としました 。また、TEEや心臓CTを用いて術後のデバイス関連血栓(DRT)の発生も評価しました 。
3. 結果
患者背景の比較
SECのグレードが高いほど、高齢であり、非発作性AF(持続性・長期持続性)の割合が高く、左房容積係数(LAVI)が大きく、左心耳流入・流出速度が低い傾向にありました 。また、SEC 3/4+群ではリスクスコアが高く、心不全や腎不全、癌の併存率も有意に高いことが示されました 。
臨床転帰と血栓塞栓イベント
追跡期間(中央値367日)において、以下の知見が得られました:
- 血栓塞栓イベント: 2年間の累積発生率は、SEC 3/4+群(11.5%)が、SEC 0群(4.4%、P=0.009)およびSEC 1/2+群(5.4%、P=0.047)と比較して有意に高値でした 。
- デバイス関連血栓(DRT): SEC 0群(2.8%)と比較して、SEC 1/2+群(8.4%、P<0.001)およびSEC 3/4+群(12.4%、P<0.001)の両方でDRTリスクが有意に上昇していました 。
- 多変量解析の結果: SECグレード単独では血栓塞栓イベントの独立した予測因子にはなりませんでしたが、**「SEC 3/4+ かつ 非発作性AF」**の組み合わせは、血栓塞栓イベント(補正ハザード比 [aHR]: 2.52; 95% CI: 1.22–5.20; P=0.013)およびDRT(aHR: 2.89; 95% CI: 1.50–5.60; P=0.003)の両方に対して強力な独立予測因子でした 。
- 死亡・出血: 全死亡および主要出血の発生率については、3群間で有意な差は認められませんでした 。
術後の抗凝固療法
退院時の抗血栓療法レジメンに群間差はありませんでしたが、術後3ヶ月時点では、SECグレードが高い患者ほどOACを継続している割合が有意に高くなっていました(SEC 0: 22.3% vs. SEC 1/2+: 31.8% vs. SEC 3/4+: 39.5%; P<0.001) 。
4. 考察と結論
本研究は、術前のSECグレードがLAAC後の血栓塞栓症およびDRTのリスクと相関することを明らかにしました 。特に、重度のSEC(3/4+)に非発作性AFを合併している症例は非常に高リスクであり、LAAC後であっても慎重なフォローアップが必要です 。
多変量解析でSECグレード単独が有意な予測因子とならなかった背景として、実臨床において重度SEC症例では医師が意図的に術後の抗凝固療法を継続・強化していた(臨床的なバイアス)可能性が指摘されています 。しかし、そのような治療的介入があってもなおSEC 3/4+群で血栓イベント率が高かった事実は、この指標の臨床的重要性を強調しています 。
