Moritz von Scheidt, Shaunak S Adkar, Johannes Krefting, Gregor Hoermann, Manja Meggendorfer, Sabine Bauer, Shaneice Mitchell, Irina Pugach, Christian Friess, Angela Ma, Ke Hao, Sophia Steigerwald, Maria Wahle, Thorsten Kessler, Marius Schwab, Felix Voll, Michal Mokry, Charalampos Sofokleous, Kaylin C A Palm, Dario Bongiovanni, Julia Fleig, Lilith Oldenbuettel, Zhifen Chen, Judith S Hecker, Florian Bassermann, Lars Maegdefessel, Matthias Graw, Arno Ruusalepp, Ingo Hilgendorf, Florian Leuschner, Hendrik B Sager, J Brett Heimlich, Wolfgang Koenig, Sebastian Cremer, David M Leistner, Wesley T Abplanalp, Stefanie Dimmeler, Andreas M Zeiher, Sander W van der Laan, Gerard Pasterkamp, Christian Braun, Siddhartha Jaiswal, Jason C Kovacic, Wolfgang Kern, Claudia Haferlach, Matthias Mann, Salvatore Cassese, Adnan Kastrati, Torsten Haferlach, Nicholas J Leeper, Johan L M Björkegren, Heribert Schunkert, Clonal haematopoiesis of indeterminate potential and mortality in coronary artery disease, European Heart Journal, 2025;, ehaf602, https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehaf602
近年、加齢に伴い造血幹細胞に生じた体細胞変異がクローン性に拡大する「Clonal haematopoiesis of indeterminate potential(CHIP)」が、心血管疾患と関連することが注目されています。本研究では、CHIP が冠動脈疾患(CAD)患者の死亡率に与える影響を大規模コホートで検証し、特に TET2 変異に焦点を当てて、ヒト組織および細胞レベルでその病態メカニズムを多角的に解析しています。
対象は冠動脈造影で CAD と診断された 8612 名で、13 のCHIPドライバー遺伝子のターゲット深度シーケンスを実施しました。VAF(variant allele frequency)2%以上をCHIPと定義し、年齢・性別・併存疾患などを用いて propensity score matching を行い、2389 名のCHIP保有者と同数の非保有者を比較しています。追跡期間は3年間で、全死亡をアウトカムとしました。
解析の結果、CHIP保有者は非保有者に比べて死亡率が有意に高く、ハザード比は1.39でした。また、TET2、ASXL1、DNMT3A、JAK2 など 8遺伝子では個別にも死亡リスクの上昇が確認されました。さらに、クローンサイズが大きい(VAF≥10%)症例では死亡リスクがより高まり、VAF の増大に伴い死亡リスクが連続的に上昇することが示されました。
病理学的解析として、心臓・血管組織の post-mortem biobank(MISSION)を用いて TET2 変異例の冠動脈および頸動脈病変を評価したところ、TET2 CHIP保有者では(1)壊死性コアの増大、(2)炎症細胞浸潤の増加、(3)弾性線維の破壊、(4)石灰化の増加など、プラークの脆弱性を示す特徴が明らかでした。またプロテオーム解析では、炎症(NLRP3 inflammasome関連)、脂質代謝、ミトコンドリア代謝などの経路が亢進していました。特に Caspase-1 は上昇し、COL14A1 や ITGB3 などプラーク安定化に寄与するマーカーは低下していました。
mutaFISH 法による RNA レベルの変異可視化では、CHIP により変異を持つ細胞がプラーク内のマクロファージに存在していることが確認され、CHIP クローンが実際に病変へ浸潤し、炎症環境に寄与している可能性が示唆されました。
さらに STARNET コホートでは、TET2 変異保有者は CAD の重症度が高く、多枝病変や高いSYNTAXスコアを示しました。マクロファージのRNA-seq解析では、多数の炎症関連遺伝子が上昇し、免疫活性化状態が明確になりました。
TET2 変異の機能的影響を検討するため CRISPR/Cas9で TET2+/− マクロファージを作製したところ、LDL受容体(LDLR)の発現が上昇し、LDL/oxLDL の取り込みが増加していました。エピゲノム解析では、TET2 欠損により LDLR プロモーターのクロマチンが開放し、転写抑制が解除される仕組みが示されました。ヒト頸動脈プラーク(Athero-Express)でも LDLR の上昇、IL1β/IL18受容体の上昇、IL1RN の低下など inflammasome 活性化の所見が再現されていました。
総合すると、CHIP は CAD 患者の独立した死亡リスク因子であり、特に TET2 変異は「LDLR の脱抑制 → 脂質取り込み増加 → 炎症活性化 → プラーク脆弱化」という一連の経路を介して CAD の悪化に寄与すると考えられます。本研究は、CHIP を心血管領域の新たな病態基盤として位置づけ、ハイリスク患者の層別化や将来的な治療標的としての可能性を示す重要な知見となっています。
