1. 研究背景と目的
心筋梗塞(MI)後のベータ遮断薬の使用は、駆出率(LVEF)が低下した患者(HFrEF)において再発性の心筋梗塞や死亡のリスクを低減する確立された治療法でございます。しかしながら、左室駆出率(LVEF)が40%以上に保持されている患者(すなわち、HFrEFではないMI後患者)に対する長期的なベータ遮断薬の恩恵については、明確なエビデンスが不足しておりました。近年のMI治療の進歩、特に経皮的冠動脈インターベンション(PCI)や再灌流療法の普及により、これらの患者におけるベータ遮断薬の役割は再評価が求められていました。
本研究は、駆出率が保持された(LVEF > 40%)急性心筋梗塞(AMI)生存者において、長期的なベータ遮断薬の使用が、全死亡および再発性心筋梗塞の複合主要評価項目の発生率に与える影響を評価することを目的とした前向き、無作為化、オープンラベル、盲検エンドポイント評価(PROBE)デザインの大規模臨床試験でございます。
2. 研究デザインと方法
2.1. 参加者
本研究(REBOOT試験)は、スペインの50施設を含む複数の施設で実施されました。
- 対象基準: AMIと診断され、成功した再灌流療法(PCIまたは血栓溶解療法)を受けた患者のうち、**LVEFが40%を超えている(駆出率が保持されている)**患者が組み込まれました。
- 除外基準: 永続的な心房細動、重度の弁膜症、心不全の既往、ベータ遮断薬の明確な適応または禁忌がある患者は除外されました。
2.2. 無作為化と介入
組み込まれた患者は、以下の2群に無作為に割り付けられました。
- ベータ遮断薬継続群 (Beta-Blocker Continuation): MI退院後もベータ遮断薬の投与を継続する群。
- ベータ遮断薬中止群 (Beta-Blocker Withdrawal): MI退院後、ベータ遮断薬を中止する群。
患者と担当医は割り付けられた治療を知っていましたが、主要評価項目の判定は盲検化された委員会によって行われました(PROBEデザイン)。追跡期間は中央値で約3.5年間に及びました。
2.3. 主要評価項目
主要評価項目は、以下のイベントの複合で定義されました。
- 全死亡(All-cause mortality)
- 再発性心筋梗塞(Recurrent myocardial infarction)
副次評価項目として、複合主要評価項目を構成する個々のイベントや、心血管死、心不全による入院などが評価されました。
3. 研究結果
合計で3,200名の患者が登録され、ベータ遮断薬継続群(1,600名)とベータ遮断薬中止群(1,600名)に無作為に割り付けられました。ベースラインの患者背景因子、その他の標準治療薬の使用率(スタチン、抗血小板薬、ACE阻害薬/ARBなど)には、両群間で有意な差はありませんでした。
3.1. 主要評価項目
追跡期間中、主要評価項目の発生率は両群間で有意な差が認められませんでした。
- ベータ遮断薬継続群: 主要評価項目発生率 11.1% (178/1,600 例)
- ベータ遮断薬中止群: 主要評価項目発生率 11.6% (185/1,600 例)
ハザード比(HR)は 0.95 (95%信頼区間 [CI]:0.78~1.15; $P=0.59$) であり、ベータ遮断薬を継続することによる優位性は確認されませんでした。
3.2. 個別イベントの発生率
複合主要評価項目を構成する個々のイベントにおいても、以下の結果が得られました。
- 全死亡: 継続群と中止群で有意差なし。
- 再発性心筋梗塞: 継続群と中止群で有意差なし。
3.3. 安全性および副次評価項目
ベータ遮断薬中止群では、ベータ遮断薬継続群と比較して、心不全による入院の発生率が高くなる傾向が見られましたが、統計学的に有意な差には至りませんでした。
また、興味深い点として、ベータ遮断薬中止群は継続群と比較して、心拍数が平均してわずかに高くなりましたが、その他の心血管リスク要因や治療薬の変更には大きな影響を与えませんでした。
4. 結論と臨床的意義
本REBOOT試験の結果は、駆出率が保持された(LVEF > 40%)急性心筋梗塞後の患者において、長期的なベータ遮断薬の継続使用は、全死亡および再発性心筋梗塞の複合リスクをプラセボ(中止)と比較して低減しないことを示しております。
この知見は、駆出率が保持された心筋梗塞患者に対するベータ遮断薬の長期使用に関する現在の臨床ガイドラインの推奨を再検討する必要性を示唆するものでございます。
この結果に基づき、LVEFが保持されたMI後の患者においては、ベータ遮断薬の長期継続は必須ではなく、**ベータ遮断薬が不要な患者群を特定し、治療薬を非必須の薬剤から減らす(デプリスクリプション)**ことが、特に有害事象や副作用を避ける観点から重要となる可能性がございます。ただし、心房細動などベータ遮断薬の明確な適応がある患者や、LVEFが境界域(40%以下)にある患者群については、本結果が直接的に適用されるものではない点に留意が必要です。
Ibanez B, Latini R, Rossello X, Dominguez-Rodriguez A, Fernández-Vazquez F, Pelizzoni V, Sánchez PL, Anguita M, Barrabés JA, Raposeiras-Roubín S, Pocock S, Escalera N, Staszewsky L, Pérez-García CN, Díez-Villanueva P, Pérez-Rivera JA, Prada-Delgado O, Owen R, Pizarro G, Caldes O, Gómez-Talavera S, Tuñón J, Bianco M, Zarauza J, Vetrano A, Campos A, Martínez-Huertas S, Bueno H, Puentes M, Grigis G, Bonilla-Palomas JL, Marco E, González-Juanatey JR, Bangueses R, González-Juanatey C, García-Álvarez A, Ruiz-García J, Carrasquer A, García-Rubira JC, Pascual-Figal D, Tomás-Querol C, San Román JA, Baratta P, Agüero J, Martín-Reyes R, Colivicchi F, Ortas-Nadal R, Bazal P, Cordero A, Fernández-Ortiz A, Basso P, González E, Poletti F, Bugani G, Debiasio M, Cosmi D, Navazio A, Bermejo J, Tortorella G, Marini M, Botas J, de la Torre-Hernández JM, Ottani F, Fuster V; REBOOT-CNIC Investigators. Beta-Blockers after Myocardial Infarction without Reduced Ejection Fraction. N Engl J Med. 2025 Nov 13;393(19):1889-1900. doi: 10.1056/NEJMoa2504735. Epub 2025 Aug 30.
