論文解説:慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)患者における左室充満圧

Gerges C, Pistritto AM, Gerges M, Friewald R, Hartig V, Hofbauer TM, Reil B, Engel L, Dannenberg V, Kastl SP, Skoro-Sajer N, Moser B, Taghavi S, Klepetko W, Lang IM. Left Ventricular Filling Pressure in Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension. J Am Coll Cardiol. 2023 Feb 21;81(7):653-664. 

本研究は、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)患者における左室充満圧(left ventricular filling pressure: LVFP)の頻度、決定因子、予後への影響を明らかにすることを目的としています。CTEPHは主に肺動脈の血栓閉塞による前毛細血管性肺高血圧症に分類されますが、しばしば左心系疾患や代謝異常を合併し、左室拡張機能障害や充満圧上昇を伴うことが知られています。

本研究では1993〜2019年にウィーン医科大学で初回の右心・左心カテーテル検査を施行された593例のCTEPH患者を対象とし、平均肺動脈楔入圧(mPAWP)および左室拡張末期圧(LVEDP)によりLVFPを評価しました。カットオフ値としてはガイドライン推奨の >15 mmHg と、生理学的上限値に基づく >11 mmHg の2基準を用いました。

結果として、LVFP >15 mmHg は10.6%、>11 mmHg は37.4%に認められました。高齢、糖尿病、高血圧、心房細動、大動脈弁狭窄、僧帽弁閉鎖不全、左房拡大が有意な関連因子であり、特に心房細動・弁膜症・左房容積は独立した決定因子でした。さらに、LVFP上昇例ではNT-proBNP高値、肺動脈圧上昇、右室—肺血管カップリングの低下が認められました。治療後フォローでは、肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)を受けた患者でLVFPが上昇する傾向が示されました。

予後解析では、中央値5.9年の観察期間に204例が死亡し、LVFPの上昇は年齢、糖尿病、心房細動、推算糸球体濾過量と並んで独立した死亡予測因子でした。カットオフ >15 mmHg、>11 mmHg のいずれも長期生存率の低下と関連していました。

結論として、CTEPH患者の少なくとも約1割にLVFP上昇が認められ、その背景には左心疾患の併存が強く関与していました。LVFP上昇は独立した予後不良因子であり、従来「前毛細血管性」とされてきたCTEPHに、後毛細血管性成分が加わる病態的特徴を示唆します。本知見は、治療選択やリスク層別化において左心因子の評価が重要であることを示しており、今後の病態解明と治療戦略に影響を与える可能性があります。

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