論文解説:ジギトキシンがHFrEF患者の治療に有効?DIGIT-HF試験

N Engl J Med 2025;393:1155-1165

ジギタリス製剤であるジゴキシンは、心不全治療において長年にわたり使用されてきましたが、主に腎臓排泄であるため、腎機能障害を有する患者様では用量調節が複雑であり、中毒リスクが高まります 。一方、ジギトキシンは主に肝臓で代謝され、その薬物動態は腎機能に大きく依存しないため、腎機能が低下した心不全患者様(HFrEF:左室駆出率低下を伴う心不全)において、ジゴキシンの代替となる可能性が注目されていました 。しかし、ジギトキシンがHFrEF患者の治療に有効であるか、また安全に使用できるかについては、これまで大規模なランダム化比較試験で確立されていませんでした 。

本研究(DIGIT-HF試験)は、左室駆出率が40%以下の慢性心不全患者様を対象に、ジギトキシンが全死亡または心不全による入院の複合主要評価項目に及ぼす影響を、プラセボと比較して検証することを目的とした、国際的な二重盲検無作為化プラセボ対照試験です 

研究方法

本研究は、左室駆出率(LVEF)が40%以下で、NYHA心機能分類クラスII~IVの慢性心不全患者様を対象としました 。ベースラインでガイドライン推奨の標準治療を既に受けているか、その治療に耐えられない、または不適格であると判断された方々です 。

患者様は、ジギトキシン投与群またはプラセボ投与群に1:1で無作為に割り付けられました 。ジギトキシン群では、初期に0.05mg/日の投与から開始し、血清ジギトキシン濃度(目標範囲:9.0~25.0 ng/mL)に基づいて用量調節が行われました。主要評価項目は、全死亡または心不全による入院の複合です 。副次評価項目には、全死亡、心不全による入院、NYHA心機能分類の変化、生活の質の変化、有害事象などが含まれました 

研究結果

合計2500名の患者様が無作為に割り付けられ、ジギトキシン群に1249名、プラセボ群に1251名となりました 。追跡期間の中央値は37.5ヶ月でした 

主要評価項目(全死亡または心不全による入院)

  • 主要評価項目を達成した患者様の割合は、ジギトキシン群で44.5%(556名)、プラセボ群で50.7%(635名)でした 。
  • ジギトキシン群はプラセボ群と比較して、主要評価項目の発生リスクを有意に減少させました(ハザード比 [HR]:0.84、95%信頼区間 [CI]:0.75〜0.94、P=0.002) 。

個別評価項目

  • 全死亡:ジギトキシン群(23.8%、297名)とプラセボ群(26.7%、334名)の間で、全死亡率に有意差は認められませんでした(HR:0.88、95% CI:0.75〜1.03、P=0.10) 。
  • 心不全による入院:ジギトキシン群(28.0%、350名)は、プラセボ群(34.2%、428名)と比較して、心不全による入院リスクを有意に減少させました(HR:0.0.77、95% CI:0.67〜0.88、P<0.001) 。

その他の臨床効果

  • NYHA心機能分類は、ジギトキシン群でプラセボ群よりも有意に改善しました(P<0.001) 。
  • 生活の質(KCCQ-OSスコアの変化)も、ジギトキシン群で有意に改善しました(P=0.003) 。

安全性

  • 重篤な有害事象の発生率は、両群間で同程度でした 。
  • 特筆すべき点として、ジギトキシン群では徐脈の発生率がプラセボ群よりも有意に高かったです(ジギトキシン群:10.7%、プラセボ群:6.4%、P<0.001) 。一方で、致死性不整脈の発生率に有意差は認められませんでした 。

結論と臨床的意義

本研究の結果から、ガイドライン推奨の標準治療を受けている左室駆出率低下を伴う慢性心不全(HFrEF)患者において、ジギトキシンを追加投与することで、全死亡または心不全による入院の複合リスクを有意に減少させることが示されました 。この効果は、主に心不全による入院の減少によってもたらされたものです 。また、ジギトキシンはNYHA心機能分類と生活の質を改善させました 。

ジギトキシンは、特に腎機能障害を持つ患者様にとって、血中濃度管理が比較的容易であるという利点があります。本試験は、ジギトキシンがHFrEF患者の治療選択肢として有効性を示した初めての大規模試験であり、臨床現場において、既存のジギタリス製剤(ジゴキシン)の代替として、あるいは標準治療ではコントロールが不十分なHFrEF患者様に対する新たな治療薬として、ジギトキシンを検討する根拠となります 。

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