労作性狭心症 / 無症候性心筋虚血
「狭心症」とは、心臓に血液を送っている血管(冠動脈)が狭くなり、心臓の筋肉に十分な血液が届いていないために生じる症状のことです。
多くの場合、動脈硬化症(血管が、硬くて狭くなる)が原因です。
階段を上ったり、運動をしたりした時に、心臓はより多くの血液が必要になるために症状を感じることが多く、労作性狭心症(ろうさせいきょうしんしょう)と言います。
ただし、高齢の方や、糖尿病をお持ちの方は、心臓への血液が十分届いていないにもかかわらず、症状を自覚しないことがあり、無症候性心筋虚血(むしょうこうせいしんきんきょけつ)と言います。
患者さん自身が困っていなくとも、やはり心臓への血液が十分ではないために、症状がはっきりしている方よりも、心臓のトラブルにつながりやすいというデータもあり、必要によっては症状がなくとも、検査や手術が必要になる方もいます。
また冠動脈の動脈硬化症を指摘されても、「まったく症状はないです」と言われていた患者さんが、治療を終えて、「普段の散歩がすごい楽になりました。治療前は症状がないと思っていましたが、自覚していないだけでした。」とおっしゃる方もいらっしゃいます。
労作性狭心症や無症候性心筋虚血の段階であれば、治療によって心臓の筋肉に傷害を残すことなく、元気な心臓を取り戻すことができます。
不安定狭心症 / 急性心筋梗塞
労作性狭心症や無症候性心筋虚血のような、安定した状態から一歩進んで、ごくわずかな体動でも狭心症が出現する不安定狭心症、さらに進んで、何もしていなくても胸が痛くなる急性心筋梗塞に至ることがあります。急性心筋梗塞は、心臓に血液を届ける冠動脈が、急につまってしまい、数分単位で心臓の筋肉が傷害されていく病気です。
傷害された心臓の筋肉は、回復することはありません。できることと言えば、心臓の筋肉に再び血液が届けられるよう一刻も早く治療を受けていただくしかありません。
そのためには、我々循環器内科医は、たとえ自宅で寝ていたとしても、緊急で駆け付けられるような体制を整えています。
一般に、心臓の筋肉に血液が届かなくなってから30分で心臓の筋肉に傷害が出始め、12時間以内に治療を受けていただかなくてはなりません。早ければ早いほど治療の効果があります。 ですので、急性心筋梗塞を引き起こした方は、“自宅で我慢する”ことなく、“とにかく急いで病院に到着”していただくのが良いです。
狭心症らしい症状と狭心症らしくない症状
狭心症の典型的な症状は、下記のような症状です。
① 胸の圧迫感・絞めつけられるような感じ
② 数秒というよりは数分続く
③ 動いたときに悪化し、休むとよくなる
④ 時に顎(あご)や左肩、胃に広がる症状を伴う
患者さんによっては「胃が痛い」、「歯が痛い」、「のどが痛い」と言う症状で病院に来院されて、狭心症や心筋梗塞の診断を受ける方もいます。
逆に狭心症らしくない症状として、「何もしていなくても胸がキリキリと痛い」、「息を吸った時に胸がチクチクする」、「ほんの数秒間だけ痛い」と言った症状です。
狭心症や心筋梗塞を起こす危険性の高い患者さんの特徴
狭心症や狭心症や心筋梗塞の多くの原因は動脈硬化症が原因です。動脈硬化症とは、“血管が”“硬くて狭くなる”ということですが、一般に生活習慣病と言われる「高血圧症(血圧が高い)」、「脂質異常症(悪玉コレステロールが高い)」、「糖尿病(血糖値が高い)」と喫煙、が原因と言われています。
普段から高血圧やコレステロールの薬を飲んでいる方で、狭心症を疑うような症状があれば、一度検査を受けてください。
狭心症の検査
外来でできる検査として、
- 心臓の電気信号を調べる心電図検査
- 心臓の筋肉の動きを調べる心臓超音波検査(心エコー図検査)
- 心臓の筋肉の傷害を調べるための血液検査
- 心臓に届く血液を調べる心筋シンチグラム
- 造影剤を用いた心臓CT検査
などがあります。担当した医師が必要に応じて選択します。
これらの検査で冠動脈の動脈硬化が疑われた場合、入院していただいた上で、心臓カテーテル検査を行う必要があります。
治療方法
これらの病気に対する治療法として、カテーテルによる経皮的冠動脈インターベンション(PCI)、外科手術による冠動脈バイパス手術(CABG)があります。さらにこれらの治療をする、しないに関わらず、再発予防のために十分な内服を行う必要があります。
カテーテル治療(経皮的冠動脈インターベンション)は狭くなった血管に、薬を塗りこんだ金属の筒(薬剤溶出性ステント)を置くことで血管を広げる治療になります。傷の残らない治療であり、患者さんへの負担は少ない、救急車で搬送された患者さんにすぐに治療ができる、というのが良い点ですが、治療を繰り返す可能性や、血液をサラサラにする薬を飲まないといけないといった悪い点もあります。
いっぽう冠動脈バイパス術は、全身麻酔で胸を開けて行う手術になり、手術の痕が残り、患者さんの負担の大きな治療になりますが、治療成績は経皮的冠動脈インターベンションよりも優れています。
長い目で見ると、どちらの治療も必要となる患者さんもいるため、それぞれの治療を行うことで、良い点・悪い点を補完しながら治療計画を立てていく必要があります。