【論文解説】アミロイドーシスにおける出血・塞栓:Reviewを基にした概説

Tana M, Tana C, Rossi D, Mantini C, Gallina S, Ricci F, Porreca E.
Thromboembolic and bleeding risk in cardiac amyloidosis.
J Thromb Haemost. 2024 Sep;22(9):2381-2392. doi: 10.1016/j.jtha.2024.05.018. Epub 2024 May 27. PMID: 38810701.

心アミロイドーシス(CA)は、トランスサイレチン型(ATTR)および免疫グロブリン軽鎖型(AL)に分類され、心筋内にアミロイド線維が蓄積することにより心機能障害を引き起こす疾患です。CA患者では、心房細動(AF)や心房心筋症、左室機能障害が高頻度で認められ、これらが血栓形成や塞栓イベントのリスクを高めます。

血栓形成の病態生理:
ATTR型では心房へのアミロイド沈着により心房収縮機能が低下し、洞調律下でも血流停滞が生じ血栓形成が起こることがあります。特に左心耳は血栓の好発部位であり、心房電気機械的不一致の存在が心房血栓形成を促進します。また、AL型ではネフローゼ症候群に伴う抗凝固因子の喪失や過剰な線溶系活性(uPAの発現亢進)も血栓リスクを高めます。

出血リスクの要因:
出血はAL型で顕著であり、アミロイド血管症による毛細血管脆弱性、肝障害、FX欠乏、化学療法薬や抗凝固薬との相互作用などが関与する。ATTR型でも自律神経障害による転倒や大動脈弁狭窄(Heyde症候群)などが出血リスク因子となります。

疫学とリスク評価:
心房細動の有無にかかわらず、CA患者には高頻度に心内血栓が認められる(報告によっては33%)。洞調律を維持していても心房の機械的機能低下があれば血栓形成があり得ます。CHA₂DS₂-VAScスコアが高い患者では、抗凝固療法の有無にかかわらず動脈塞栓症の発症率が有意に高い結果でした。

抗凝固療法の意義と選択:
CA患者における抗凝固療法は、特にAF合併例では推奨され、CHA₂DS₂-VAScスコアに関係なく適応が検討されます。洞調律例でも高スコア例では抗凝固を考慮される可能性があります。ビタミンK拮抗薬(VKA)と比較して直接経口抗凝固薬(DOAC)は、出血リスクが低いとされ、安全性が高いとする報告が多いが、AL型では効果に差がないともされています。

電気的除細動前の注意点:
心内血栓の持続が多く、抗凝固中でも解消が難しい例があるため、CA患者では電気的除細動前に経食道心エコーによる血栓評価が推奨されます。

静脈血栓塞栓症(VTE)とその他の血栓症:
AL型では特にVTEリスクが高く、低アルブミン血症との関連が示唆されています。また、化学療法薬(サリドマイドやレナリドミド)やIMIDs使用例では、VTEリスクがさらに上昇するため、アスピリンや低分子ヘパリンによる予防が必要とされています。

出血合併症の実態:
wtATTRでは出血性脳卒中や消化管出血が多く、DOAC使用群ではVKA使用群よりも出血率が低いと報告されている。出血のリスクと抗凝固の必要性を慎重に評価し、個別のリスクに応じた対応が求められます。

TAVR(経カテーテル大動脈弁置換術)後の脳卒中リスク:
ATTR-CAは大動脈弁狭窄と併存することがあり、TAVR後の脳梗塞リスクが3倍に上昇するとの報告がある。AFがなくとも抗凝固の必要性があるか、今後の研究が必要と考えられます。

結語:
CAは血栓と出血の両リスクが高い複雑な疾患であり、抗凝固療法の適応判断は多因子的かつ個別的であることが望ましいと考えられます。DOACは安全性において優れるが、AL型や化学療法併用例ではさらなる注意が必要です。多職種連携のもとでリスク評価と治療戦略を構築することが、CA患者の予後改善に重要であると結論づけられています。

                                           発表 金子先生

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次