【論文解説】左室機能の低下した心不全症例の予後予測としてのアラキドン酸スコアの有用性

Ke Ma, Jie Yang, Yihui Shao, Ping Li, Hongchang Guo, Jianing Wu, Yi Zhu, Hui Zhang, Xu Zhang, Jie Du and Yulin Li

Circulation Research. 2022;130:1056–1071

 今回は基礎研究の領域から、心不全の予後予測に関する論文が読まれました。

 背景:急性心不全患者の死亡を正確に予測することは、いくつかの予測モデルがあるが、未だ困難である。本研究では、急性心不全患者の死亡を予測するために、アラキドン酸代謝産物からAAスコアを開発し、既存の予後予測モデルよりも優れているかを検討している。
 方法:HFrEF患者(発見コホートn=419;検証コホートn=386)の血清AA代謝物を質量分析計で測定した。1年後の死亡に関する因子を、機械学習法を用いてAAスコアを作成し、検証を行った。さらに、心筋梗塞モデルマウスから、AAスコアの有用性のメカニズムを検討した。
 結果:27種類のAA代謝物のうち、14,15-DHET/14,15-EET比の上昇が1年死亡に最も関連しており、14,15-DHET/14,15-EET比、14,15-DHET、PGD2、9-HETEを組み合わせたAAスコアが最も優れていた。このAAスコアは、BNPやその他の既存の臨床情報を用いた予後予測モデルよりも優れていた。マウスモデルにおいて、心筋梗塞後にsEHの発現と酵素活性が上昇しており、sEHの遺伝子欠損は心不全を改善し、14,15-EETの阻害はこの心保護作用を消失させた。14,15-EETの有益な効果は、単球とマクロファージの活性化を阻害することによると考えられる。
 結論:この研究は、AAスコアがHFrEF患者の予後を予測し、sEHを阻害することが、将来の心不全治療のターゲットとなることが示唆された。

 院内でDiscussionされたのは以下の通りです。
・BNPによる心不全の予後予測は難しく、特に拡張不全では予後予測が困難である可能性があり、BNP以外のバイオマーカーが求められている。
・EETの投与やsEH阻害薬が心筋梗塞の治療薬となりうるが、EETは体内ですぐに分解されるものもあるため、sEH阻害薬が将来の臨床で用いられる可能性がある。
・14, 15-EETは抗炎症作用だけでなく、新生血管を増やすような作用も報告されている。

発表者 白木先生、文責 横井

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