【レビュー解説】 Sex(生物学的性別)とGender(社会的性別)による心血管系疾患の表現系と結果

Gender medicine: effects of sex and gender on cardiovascular disease manifestation and outcomes

Vera Regitz-Zagrosek, Catherine Gebhard

Nature Reviews Cardiology, Published online: 31 Oct. 2022

不整脈チームでの心房細動の性差の研究での疑問点から、sex(生物学的性別)とgender(社会的性別)についての心血管疾患の差についてのレビューを紹介していただきました。

sexでは生物学的因子が関係しており、性染色体の差やエビジェネティックな修飾、性ホルモンなどがその因子です。genderでは社会や家庭の中での性的役割や関係性、アイデンティティに加え、社会文化的なライフスタイルや環境などが因子です。心血管疾患におけるsexによる性差はこれまでにも多く解析されており、心筋そのものの生物学的性差や性ホルモン、内皮細胞の発現、血中脂質レベルの変化などがよく知られています。

本レビュー内ではgenderを0-100点にスコアリングするという面白い論文が紹介されています。高等教育、収入が高い、社会的地位が高い、などを男性的スコア、家事が多い、家事によるストレスが多い、などを女性的スコアとして、100点に近いほどより女性的gender、0点に近いほどより男性的genderとしています。sexが女性では100点に近い人が多く、sexが男性では0点に近い人が多くなりますが、それぞれそうではない群もあり、このような群が従来見えてこなかった疾患性差に関係しているのかもしれません。例えば、若年者の急性冠症候群の予後は、生物学的女性で健康関連のQOLが悪いのですが、上記のスコアでgenderが女性に近づくとよりQOLと関係しています。握力やメタボリック症候群はsexと関係していますが、収縮期血圧やPWV、BMIやうつなどはgenderと関係している因子でした。認知機能はsexが女性であるとpositiveに関連していますが、genderが女性であるとnegativeに関連していました。この理論から言えば、sexが女性でgenderが男性だと認知機能の予後がいいということになります。他に、genderが女性で悪い要素は、ストレス関連の心血管疾患などがあり、理由としては、genderが女性であることで医療へのアクセスが悪くなったり、母数の問題で十分な研究がなされていなかったり、男性医師との組合せで十分な治療ができていない、ICUでの治療が少ないなどといった要素があります。

このレビューを読んで、sexだけでの解析を続けると、genderを見失ってしまい、本当の意味での「性差」が見えてこないのではないか、と感じたとのことでした。

フロアからは、

・性腺ホルモンが発達する前でも、アンドロゲンの量が関与しているという報告がある 

・sexが女性の方が筋肉量が少なくサルコペニア等は進行する印象があるので、認知機能は保たれる、という点は興味深いポイントである

などの意見が出ました。

発表:山口先生、 文責:矢島

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