論文解説:START-ECPRスコア 〜病院外心停止かつ初期非ショッカブルリズム患者におけるECPR適応判断を支援するためのツール〜

Kawauchi A, Okada Y, Aoki M, Inoue A, Hifumi T, Sakamoto T, Kuroda Y, Nakamura M; SAVE‐J II Study Group. Clinical Prediction Score for Patients With Initial Nonshockable Rhythm Receiving Extracorporeal Cardiopulmonary Resuscitation for Out-of-Hospital Cardiac Arrest: Development and Internal Validation. J Am Heart Assoc. 2025 Sep 2;14(17):e042734. doi: 10.1161/JAHA.125.042734. Epub 2025 Aug 29. PMID: 40878992.

本研究は、病院外心停止(out-of-hospital cardiac arrest:OHCA)において初期リズムが非ショッカブル(asystoleまたはPEA)である患者に対し、体外心肺蘇生(extracorporeal cardiopulmonary resuscitation:ECPR)の適応を判断するための臨床予測スコアを開発・内部検証した日本の多施設後方視的研究です。これまでECPRはショッカブルリズム症例を中心に実施され、非ショッカブルリズム症例では予後不良とされていたが、一部に良好な転帰を示す例もあり、適応判断の指標が求められます。

対象は、全国36施設が参加したSAVE-J II(Study of Advanced Life Support for Ventricular Fibrillation With Extracorporeal Circulation in Japan II)研究の登録例のうち、2013〜2018年にECPRを施行された成人OHCA患者のうち、初期リズムがPEAまたは心静止であった648例。外傷、溺水、中毒、熱中症など外因性原因例や、病院到着時にROSCを得ていた例は除外された。主要評価項目は生存退院、副次評価項目は退院時の良好神経学的転帰(Cerebral Performance Category 1または2)とされました。

患者の中央値年齢は62歳、男性が75.9%であり、初期リズムはPEAが74.4%を占めた。全体の生存退院率は13.3%であった。統計解析はロジスティック回帰を用い、1,000回のブートストラップによる内部検証を行った。解析の結果、退院生存に独立して関連する3因子が抽出されました。(1)病院到着時にショッカブルリズムまたはPEAであること、(2)到着前に一過性のROSCを認めたこと、(3)到着時に生命徴候(Signs of Life:SOL、喘ぎ、瞳孔反応、GCS-M≧2)を有することです。

これら3因子を各1点とする「START-ECPRスコア(Signs of life, Transient ROSC, Not Asystole Rhythm to ECPR Score)」が作成された。スコア0点群の生存退院率は4.4%、1点群では10.7%、2〜3点群では30.8%であった。モデルの識別能(C-index)は0.701(バイアス補正後0.696)と良好であり、校正性も保たれていました。良好神経学的転帰予測に対するC-indexは0.761であった。Decision curve analysisでは、予測生存確率が5〜20%の範囲でスコアの臨床的有用性が示されました。

本研究の限界として、外部検証が行われていないこと、ECPR適応判断が施設・医師の裁量に依存していたこと、症例数が限られたこと、そして日本のデータに基づくため一般化可能性に制限があることが挙げられています。それでも、非ショッカブルリズムOHCA例という予後不良群において、簡便かつ実用的な予測スコアを提示した意義はあると論じられています。

結論として、START-ECPRスコアは、病院外心停止かつ初期非ショッカブルリズム患者におけるECPR適応判断を支援するための簡便で有用なツールと結ばれています。今後は外部検証および国際的な応用を通じて、臨床現場での実装可能性と有効性を検証することが期待されます。

発表 宇野先生   文責 吉岡

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