論文解説:心房心筋症のマーカーや危険因子、AF・HF・脳卒中発症との関連

Vad OB, van Vreeswijk N, Yassin AS, Blaauw Y, Paludan-Müller C, Kanters JK, Graff C, Schotten U, Benjamin EJ, Svendsen JH, Rienstra M. Atrial cardiomyopathy: markers and outcomes. Eur Heart J. 2025 Oct 15:ehaf793. doi: 10.1093/eurheartj/ehaf793. Epub ahead of print. PMID: 41092306.

心房心筋症(Atrial cardiomyopathy: AtCM)は、心房の構造的・機能的・電気的リモデリングを特徴とする状態であり、心房細動(AF)や心不全(HF)、脳卒中の重要な基盤と考えられている。本研究は、AtCMのマーカーや危険因子、さらにそれらとAF・HF・脳卒中発症との関連を明らかにすることを目的に行われた。対象はUK Biobankに登録された26,467人で、心臓MRIと心電図データが利用可能なAF、HF、脳卒中の既往を持たない個体が含まれた。

AtCMの指標には、①左心房拡大(LAVIMax >60 mL/m²またはLAVIMin >30 mL/m²)、②左心房駆出率<45%、③P波延長>120 ms、④P波終末力(PTF)≥5000 µV·msの4項目を用いた。全体の15.7%が1つ以上、2.3%が2つ以上のAtCMマーカーを有していた。リスク因子解析では、高齢(65歳以上)、男性、冠動脈疾患、高血圧、大量飲酒(週15杯以上)が独立してAtCMと関連した。肥満は男女で方向が異なり、男性ではAtCMの頻度増加、女性では減少と関連した。

中央値4.9年の追跡で、560例が新規AFを発症した。AtCMマーカーを1つ有する場合のAF発症ハザード比(HR)は1.88、2つ以上の場合は4.59で、マーカー数が増えるほどAFリスクは段階的に上昇した。また、2つ以上のマーカーを有する群ではHF(HR 3.08)および脳卒中(HR 3.07)のリスクも有意に高かった。AtCMマーカーを加えることでAF発症予測モデルの識別能(C統計量)は向上し、再分類改善度(NRI)は13.7%であった。臨床リスクスコア(HARMS2-AF)および遺伝的リスクスコア(PRS)との統合解析では、AtCMマーカーの存在がこれらに加算的にAFリスクを高めた。特に高臨床リスク群では、AtCMを有する者のAF発症HRは14.65に達した。

AtCMはAFのみならずHFや脳卒中の共通基盤となる可能性が示唆され、特に複数のマーカーを有する者では予防介入の標的となり得る。AtCMリスク因子には、加齢・高血圧・冠疾患・過度の飲酒が含まれ、これらの管理によりAtCMの進展やAF発症を抑制できる可能性がある。臨床的には、ECGや画像マーカーを用いたAtCMの早期同定が、AF・HF・脳卒中予防に寄与することが期待される。

結論として、AtCMマーカーは無症候の一般集団でも約6人に1人に認められ、AF、HF、脳卒中の発症と強く関連する。AtCMはこれら疾患の「共通の病的基盤」として位置づけられ、臨床および遺伝的リスク評価と組み合わせることで、より精密なリスク層別化と予防戦略の構築が可能であることが示された。

発表:吉岡   文責:吉岡

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