【論文解説】若年発症の心房細動患者における遺伝子検査:EHJが示すその現在地

Genetic testing in early-onset atrial fibrillation
European Heart Journal, ehae298,
https://academic.oup.com/eurheartj/advance-article-abstract/doi/10.1093/eurheartj/ehae298/7717131?redirectedFrom=fulltext

心房細動(AF)は、頻度の多い不整脈であり、社会刑事的に大きな負担となっています。特に若年発症のAF患者では遺伝的要因が重要です。最近の大規模な遺伝子研究は、AFが遺伝性心筋症等と臨床的および遺伝的に重なることを示しており、若年発症のAFが重篤な心室疾患の初期指標となる可能性が示唆されています。この論文は、若年発症のAF患者における遺伝子検査の有効性と、その臨床管理への影響を検討されています。

遺伝子のバリアントとはDNAの塩基配列の違いを表す概念です。主に3種類に分類され、SNP・挿入or欠失、繰り返し配列です。
1%以上の頻度をコモンバリアント、それ未満をレアバリアントと定義されます。
それぞれのコモンバリアントに重み付けを行い、そこから導き出されるポリジェニックリスクスコアが、有望なツールとして期待されています。

心房細動のレアバリアント:TTN,LMNA,PKP2,SCN5A….
遺伝性心筋症のレアバリアント:TTN,LMNA,PKP2…..

遺伝子検査は、若年発症のAF患者においてモノジェネティックな欠陥を特定する有望な手段です。特に、遺伝性心筋症に関連する遺伝子の病的変異は、臨床的に有意であることが示されています。2023年の米国心臓協会ガイドラインでは、45歳以下のAF患者に対する遺伝子検査がClass IIb推奨とされており、遺伝子検査がAFおよび遺伝性心疾患の予後や管理に貢献する可能性が認められつつあります。

遺伝子検査の課題:
遺伝子検査の結果の曖昧さ(不明意義の変異など)は大きな課題であり、早期発症のAF患者の約60%がこれらの変異を持つ可能性があります。患者教育(事前カウンセリングを含む)、遺伝子チームの訓練、高信頼性の遺伝子の選択、および慎重な報告が、この問題を軽減するための戦略です。さらに、遺伝子検査の普及には、財政的な障壁、保険適用の問題、専門家の不足、および標準化された定義の必要性が含まれます。
加えて、現在の遺伝パネルはヨーロッパ集団におけるデータを元にしており、非ヨーロッパ集団への適応に関しても不確実性があります。

遺伝子検査のメリットについて
・より詳細な臨床的評価につながる(ARVCバリアントを有する場合に、詳細な右室機能評価を行う・・・等)

・臨床的意思決定につながる(以下、具体例)
  DCMにおけるLMNAではフォローアップ強化やICDの検討
  ARVC等での運動制限 

・カスケードスクリーニング 
  家族・血縁に対する臨床的スクリーニングの検討が可能

本論文の結論としては、『遺伝子検査は若年発症のAF患者において臨床的に意義のある遺伝子変異を特定する手段として有望であり、個別化されたケアの発展に寄与する可能性がある』と記載されています。一方で、『その実現には、すべての利害関係者によって支持されるフレームワークが必要である』とも記載されています。遺伝子検査の実施と結果の解釈には慎重なアプローチが求められ、さらなる研究が緊急に求められます。

以下のような項目で、その後の討議が行われました。
・個別化医療への応用の未来
・病理所見との関与

発表者:高橋先生    文責:吉岡

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次