【論文解説】劇症型心筋炎への早期心筋生検と、予後との関連は?:FULLMOON registryより

この論文は、劇症型心筋炎(Fulminant Myocarditis, FM)に対する早期心内膜心筋生検(Endomyocardial Biopsy, EMB)の臨床的影響を評価することを目的とした国際的な多施設研究です。

Eur Heart J. 2023 Dec 21;44(48):5110-5124.
Fulminant myocarditis proven by early biopsy and outcomes

背景と目的

劇症型心筋炎は急性の重篤な心筋炎症であり、強力な薬物療法や一時的な機械的循環補助(temporary mechanical circulatory support, t-MCS)が必要とされることが多い疾患です。現在、専門家のガイドラインでは、FMが疑われる場合には迅速にEMBを実施することが推奨されていますが、そのタイミングが予後に与える影響については明らかになっていません。本研究では、早期(集中治療室入室から2日以内)のEMBと遅延(2日以降)のEMBを比較し、その臨床的影響を検討しました​。

方法

本研究は、15カ国36の三次医療機関で行われた国際多施設後ろ向きコホート研究(FULLMOONレジストリ)です。419人のFM疑いの成人患者を対象とし、そのうち183人(44%)がEMBによる確定診断を受けました。主要評価項目は、心臓移植(HTx)や左心補助装置(LVAD)を必要としない1年生存率とし、早期EMB群(n=103)と遅延EMB群(n=80)を比較しました​。

結果

  • 患者背景
    平均年齢は40歳(範囲: 29–52歳)で、77%の患者がt-MCSを受けました。
  • 1年生存率
    全体の65%がHTx/LVADなしで1年後も生存していました。
  • 早期EMBの有効性
    • 早期EMB群では、遅延EMB群と比較して有意に高い1年生存率(70% vs. 49%、P = 0.004)を示しました。
    • プロペンシティスコア調整後も、早期EMB群の方が有意に高い生存率(63% vs. 40%、P = 0.021)を維持しました。
    • 早期EMBは1年後の死亡またはHTx/LVADのリスク低下と独立して関連していました(オッズ比0.44、95%信頼区間: 0.22–0.86、P = 0.016)​。

考察と結論

本研究の結果から、FMが疑われる患者に対して早期にEMBを実施することが、心移植やLVADなしでの生存率を向上させる可能性が示唆されました。EMBはFMの診断や病態の把握に不可欠であり、特に劇症型巨細胞性心筋炎(GCM)など、迅速な治療が必要な病態の特定にも有効です。しかし、現実的にはEMBの実施率は低く、手技のリスクや医療者の経験不足がその要因となっています。今後は、早期EMBの重要性をさらに明確にするための前向き研究が求められます​。

結論

FM疑いの患者に対して、早期にEMBを実施することは有益であり、迅速な診断と適切な治療方針の決定に寄与すると考えられます。本研究は、早期EMBの推奨を強化するエビデンスを提供しました。


発表後に以下の内容で討議が行われました。

心タンポナーデが早期生検の20%程度で発生している
現状の心筋生検の体制について
早期生検群での

文責 吉岡   発表:坂井先生

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