このシリーズでは、健康診断の中で、循環器内科と関係の深い項目について解説を行っていきます。記念すべき第1回は、国民病とも言われる、高血圧症についての解説です。
健診結果が返ってきたけど、○○判定の意味は??
会社で健診を受けると、健診結果が返ってきますね。それぞれの検査項目にA〜Eの判定がついているはずです。このアルファベットは何を意味するのでしょうか?
多くの場合、日本人間ドック学会の定めた基準に従って、受診の必要性に応じた判定がくだされています。つまり、Aは受診の必要がなく、Dが最も受診の必要性が高いという意味です。
血圧の場合は、以下の基準によることが多いです。ここで、収縮期血圧とは、血圧測定の際に表示される大きい方の数値であり、拡張期血圧は小さい方の数値です。
A:異常なし 収縮期129mmHg以下、拡張期84mmHg以下
B:軽度異常 収縮期130-139mmHg、拡張期85-89mmHg
C:要再検査・生活改善 収縮期140-159mmHg、拡張期90-99mmHg
D:要精密検査・治療 収縮期160mmHg以上、拡張期100mmHg以上
E:治療中
高血圧の基準が160mmHg以上に変更になったと聞きました
この判定基準を見ると、C判定は病院を受診する必要がなく、高血圧ではないと感じる方が多いようです。実際に、『高血圧の基準が収縮期血圧160mmHg以上に変更になった』と誤解され、そのような誤った報道が広がりました。
紛らわしいのですが、健診結果の判定基準と高血圧の診断基準は異なります。日本高血圧学会による高血圧の診断基準(病院で測る血圧)は以下のとおりです。
血圧 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 |
---|---|---|
正常血圧 | <120 | <80 |
正常高値血圧 | 120-129 | <80 |
高値血圧 | 130-139 | 80-89 |
Ⅰ度高血圧 | 140-159 | 90-99 |
Ⅱ度高血圧 | 160-179 | 100-109 |
Ⅲ度高血圧 | ≧180 | ≧110 |
拡張期高血圧 | ≧140 | <90 |
では、C判定の人はどうしたらいいの?
C判定(収縮期血圧140mmHg以上)はすでに、高血圧の基準に収まる値です。本来であれば、病院の受診を考えるべきですが、なぜ要再検査・生活改善に分類されているのでしょうか。
血圧は様々な要因で容易に変動します。例えば、テストの前で緊張していたり、怒っていたり、走ったりすれば、健康な方でも血圧が上昇します。その中で、医療機関でのみ血圧が上昇する場合を、白衣高血圧と呼んでいます。白衣高血圧であることを除外するために、平常の血圧測定で血圧が上がっていないかを確認するように勧めているものと思います。
しかし、白衣高血圧の方も、安心ではありません。岩手県で行われた研究では、白衣高血圧の方は、そうでない正常血圧の方と比較し、高血圧に移行するリスクが1.8倍高いとされています。
まとめると、血圧を家庭や職場で再測定する環境にない方、血圧が140mmHgを複数回超える方、心配な方は、積極的に医療機関を受診するべきだと考えています。
一回お薬を飲み始めたら、一生飲まないといけないから、受診したくない。
『病院に行ったら、高血圧の薬が自動的に始まるよね。お薬が始まったら最後、一生飲み続けなければならないのでしょ。』と誤解されている方が多くおられます。
まず、私たちが健診で血圧が高いと言われた方を初めて診察する場合、白衣高血圧ではないか、高血圧を起こしている他の病気が隠れていないか、を考えます。
実際に、私たちの施設の循環器内科専門医5名にアンケートをとったところ、4名が、『非常に高い血圧であるか、高血圧による症状・臓器障害が無い限り、すぐにはお薬を開始しない。一旦は、生活習慣の改善を指導し、血圧記録をつけてもらうようにする。』と回答しました。これは、医師の診療スタンスによって違いうるポイントではありますが、受診したからと言って、必ず処方箋をもらって帰るわけではありません。
また、慎重な判断を要するところではありますが、高血圧のお薬を途中で中止する判断に至ることはあります。例えば、もともと塩分摂取が多く、肥満傾向であった方が、必死の減塩・ダイエットに取り組んだ結果、お薬が不要となるケースもあります。
しかし、誤解しないで頂きたいのは、生活習慣改善に望みをかけて、ダラダラとお薬の開始を延期することは推奨されていません。ガイドラインでも、血圧が高いうちは、お薬も併用して速やかに血圧を下げることが重要であることが強調されています。
また、『若いからまだ治療は良いよね。』という考えも正しくありません。高血圧は、現役世代のような若い方ほど、治療によるメリットが大きいことが知られています。血管の老化(動脈硬化)が進む前の介入が大切です。
さいごに
病院や医院は、皆さんの健康について気軽に相談するところです。健診結果がよくわからない、お薬はできるだけ飲みたくないなどの相談に、快く応じてくださるはずです!
仕事の帰りに、買い物のついでに、健診結果を持って、近くの先生を訪ねてみませんか?
文責:鍋嶋