Aspirin Monotherapy vs No Antiplatelet Therapy in Stable Patients With Coronary Stents Undergoing Low-to-Intermediate Risk Noncardiac Surgery
J Am Coll Cardiol. 2024 Aug 29 online ahead of print
https://www.jacc.org/doi/10.1016/j.jacc.2024.08.024
背景
薬剤溶出ステント(DES)の植え込み後、非心臓手術を受ける患者には、血栓予防と出血リスクのバランスを取る管理が必要とされます。現在のガイドラインでは、PCI後1年以上経過したDES患者が非心臓手術を受ける場合、アスピリンを手術期間中も継続することを推奨していますが、これを支持するエビデンスは主に観察研究に基づいており、特に第一世代DESの使用者においてステント血栓症リスクが高いことが根拠とされています。近年、第二世代以降のDESの安全性向上に伴い、抗血小板療法の管理が再評価されていますが、手術中にアスピリンを継続すべきか、一時中止するべきかについての最適なアプローチは依然として明確ではありません。本研究では、これらの不確実性を解消するため、アスピリン単独療法の継続と一時中止の効果を比較することを目的としました。
方法
この試験(ASSURE-DES試験)は、多施設共同の無作為化オープンラベル試験として行われ、韓国、インド、トルコの30施設で実施されました。対象者は、少なくとも1年前にDESを植え込み、低〜中リスクの非心臓手術を予定している患者とし、アスピリン単独療法の継続(アスピリン群)と、すべての抗血小板療法を手術5日前から一時中止する方法(非抗血小板群)に1:1の比率でランダムに割り付けました。手術後48時間以内に抗血小板療法を再開することが推奨され、主要評価項目として、手術前5日から手術後30日までの期間における死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中の複合アウトカムが設定されました。
結果
本試験には合計1,010人の患者が登録され、実際の手術を受けた926人(アスピリン群462人、非抗血小板群464人)が主要評価対象となりました。アスピリン群では3人(0.6%)、非抗血小板群では4人(0.9%)が主要複合アウトカムに達し、両群間に有意な差は認められませんでした(P > 0.99)。また、ステント血栓症はどちらの群でも発生せず、重大な出血率についてもアスピリン群で6.5%、非抗血小板群で5.2%と有意差は見られませんでした(P = 0.39)。ただし、軽度の出血はアスピリン群で14.9%、非抗血小板群で10.1%と、アスピリン群で有意に多い結果となりました(P = 0.027)。
考察
本研究結果は、アスピリンを継続することによる周術期の心血管イベント予防効果が限定的であり、むしろ軽度の出血リスクを増加させる可能性があることを示唆しています。この結果は、特に低〜中リスクの非心臓手術を受けるDES植え込み患者において、抗血小板療法を一時的に中止する柔軟な管理が可能であることを示唆しています。これには、現行のDESの安全性向上、手術手技の進展、周術期管理の充実が影響していると考えられます。ただし、観察されたイベント率が予想より低く、本試験の統計的検出力が制限された可能性があるため、さらなる研究が求められます。
まとめ
本研究は、DES植え込み後1年以上経過した安定期の患者が低〜中リスクの非心臓手術を受ける際、アスピリンを継続しても心血管イベントの予防効果は見られず、軽度の出血リスクが増加する可能性があることを示しました。この結果は、対象患者に対し周術期の抗血小板療法の一時中止が臨床的に容認できる選択肢であることを示唆していますが、イベント率の低さやリスクが比較的低い手術に限定された結果であるため、今後の大規模な研究による再検証が必要です。
以下の内容が討議されました。
・イベント数がかなり少ないが、どのような症例で主要エンドポイントを起こしたのか。
・PCI後の非心臓手術までの期間とリスクについて。
・実臨床で、出血リスクが高い人では、アスピリンを中止する方向で考えて良いのか。
発表 夏秋先生 文責 鍋嶋