European Heart Journal (2023) 00, 1–107
2023 ESC Guidelines for the management of acute coronary syndromes
2023年にESC(ヨーロッパ心臓病学会)の急性冠症候群ガイドラインが改定され、今回の抄読会で取り上げられました。
●診断
患者の特定の徴候や症状から暫定的な診断を下し、更なる検査から最終診断を導くフローが提唱されています。
特にNSTEMIが疑われ、即時の侵襲的冠動脈造影の適応がない患者では、hs-cTnを0h、1h/2hに測定するNSTEMI診断/除外のアルゴリズムを推奨されています。
●冠動脈造影
STEMIに関しては、診断からPCIまでの予測時間が120分以内であれば、PrimaryPCIが可能な施設へ搬送。それ以上かかると想定される場合は、10分以内に血栓溶解療法を行い、PrimaryPCIが可能な施設へ搬送することが推奨されています。
NSTE-ACSのCAGのタイミングについてはリスクにより層別化を推奨されています。非常にリスクの高い患者は即時搬送し、侵襲的戦略を選択し、それ以外の患者には入院中に侵襲的戦略を施行することが記載されています。
●院外心停止
院外で心停止し、自発的に循環が戻り、ST上昇が持続している・それに相当する場合は、PrimaryPCIが推奨されています。循環動態が安定し、ST上昇が持続していない患者においては、直ちに冠動脈造影を行うことはclassⅢへと変更されています。体温管理に関しては以前は32度から36度の低体温での管理が推奨されていたが、今回は37.7℃以上の発熱を避けることがclassⅠで推奨。
●MCSに関して
重度/難治性心原性ショックを伴うACSへの短期間のIABP、V-A ECMO、ImpellaといったMCSの使用はclassⅡbの位置付け。機械的合併症を伴わない心原性ショックを伴うACSへのIABPの使用はclass Ⅲで推奨されていません。
●抗血小板剤
ACS患者における前投薬として、アスピリンはclassⅠの推奨。PrimaryPCI時の前投薬としてP2Y12阻害薬はclassⅡbに変更されました。NSTE-ACSにおいては前回のガイドラインから変更なく、解剖学的構造が判明する前のP2Y12阻害薬の投与はclassⅢ。P2Y12阻害薬治療の選択に関しては、より強力なP2Y12阻害薬であるプラスグレルとチカグレロルが推奨され、プラスグレル、又はチカグレロルが入手できない、禁忌、忍容性がない場合はクロピドグレルが推奨となっています(classⅠ)。PCIが施行される患者ではチカグレロルよりもプラスグレルを検討すべきと推奨(classⅡa)。アスピリンとP2Y12阻害薬による12ヶ月のDAPT、12ヶ月以降はアスピリン単剤が既定の抗血小板療法としてclassⅠになりました。
●出血リスク低下のための抗血小板療法
3-6ヶ月のDAPT期間中にイベントを経験せず、虚血リスクの高くない患者においては、単剤の抗血小板療法を検討すべき(classⅡa)という点に変更はありませんが、出血リスクの高い患者においては、1ヶ月のDAPT後に単剤の抗血小板療法を検討してもよい(classⅡb)との推奨が追加されました。
P2Y12阻害薬のde-escalation戦略に関しては、ACSから30日以内のde-escalationは推奨されないこと(classⅢ)が加わり、それ以降のde-escalationは検討可能になりました(classⅡb)。
●経口抗凝固薬の適応を有するACS患者における抗血栓療法
ACS発症から1週間までは抗凝固薬+DAPTの3剤の抗血栓療法(TAT)、その後6ヶ月までは抗凝固薬と単剤の抗血小板療法の2剤の抗血栓療法(DAT)が推奨され(classⅠ)、6-12ヶ月はDATがclassⅠ、抗凝固薬単剤療法がclassⅡbになりました。虚血リスクを低下させることが重要である患者には、1ヶ月のTAT(classⅡa)、それ以降12ヶ月までは抗凝固薬と単剤の抗血小板療法の2剤の抗血栓療法のDAT(classⅠ)が推奨されています。いずれの戦略でも12ヶ月以降は抗凝固薬単剤療法がclassⅠで推奨されています。
●多枝病変を伴うACS
多枝疾患を有するACS患者の管理については、心原性ショック、STEMI、NSTE-ACSの3つに分類されて記載されています。
心原性ショック
→責任血管のみの即時PCIを行うことがclassⅠで推奨、staged PCIによる完全血行再建が新たにclassⅡaとされています。
STEMI
→最初の治療時、又は45日以内の完全血行再建がclassⅠの推奨に変更。
NSTE-ACS
→完全血行再建がclassⅡa、非責任血管の侵襲的な機能的評価がclassⅡbで以前と変更なし。
●冠動脈閉塞を伴わない心筋梗塞(MINOCA)の診断アルゴリズム
MINOCAと暫定診断された全ての患者は最終診断を下すために診断アルゴリズムに従うこと、冠動脈造影で最終診断が明確でなかった場合に心臓MRIを使用することがclassⅠで推奨されています。
●段階的脂質低下療法
脂質低下療法を受けていない、または低強度/低用量のスタチンを服用している患者においては、高強度/高用量のスタチンの開始/変更がclassⅠで推奨とされ、ACS入院中からスタチンとエゼチミブの併用療法を行うことがclassⅡbとされました。また、最大耐用量のスタチン、又は最大耐用量のスタチンとエゼチミブを服用している患者においては、LDL-Cが55mg/dL未満を達成していなければ、エゼチミブ、もしくはPCSK9阻害薬の追加がclassⅠで推奨されています。退院から4-6週後、さらにその4-6週間後のフォローアップでLDL-C<55mg/dLが未達成であれば、最大耐用量のスタチン、エゼチミブ、PCSK9阻害薬の追加がクラスⅠで推奨されています。
最大限のスタチンを含む脂質低下療法を受けているにも関わらず2年以内にACSを繰り返すなどの血栓塞栓症イベントの再発症例ではLCL-C40mg/dl未満を目指しても良い(ClassⅡb)とされました。
●薬物療法
BBに関してはEF40%以下であれば心不全症状の有無に関わらずclassⅠで推奨され、EFに関わらず全てのACS症例への使用を考慮する(classⅡa)。ACEiは心不全症状を有する症例、EF40%以下、糖尿病、高血圧、CKD合併症例でclassⅠで推奨され、EFに関わらず全てのACS症例への使用をが記載されています(classⅡa)。MRAはEF40%未満の心不全を有する症例や糖尿病合併症例でclassⅠで推奨されています。
発表後には、CPA時の冠動脈造影、MCSの使用、抗血小板剤に関して討議が行われました。
発表:本郷先生 文責:吉岡